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アウインの行方 3
一日の仕事を終え報告や雑務を片付けると、室内は仄暗くなっていた。
いつの間にか灯された蝋燭の明かりに気づき、テンゲルは執務室の椅子の背もたれを軋ませて伸びをする。大きく息を吐き出して窓の外を見れば、城下に連なる屋根に茜が差していた。
――もうこんな時間か。ナージュにひと目会いたかったが。いや、このひと山に判を押してしまえば、夜のうちに会いにいけるかもしれん。……早く同じ場所で寝起きできるようになればいいのだがな。
婚礼は、あと半月後に迫っていた。穏やかな季節となり、緑が美しく萌え、花も綻びはじめている。テンゲルはナージュのために仕立てている婚礼衣装を思い浮かべ小さく笑った。きっとよく似合うだろう。それに合わせて特注したアクセサリーの数々に、ナージュがどんな顔をするのか今から楽しみでならない。
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