アウインの行方 3

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 テンゲルはここ最近のナージュをつい思い返してしまう。それまでは色彩の少ない質素な服装に身を包むことの多かったナージュだったが、テンゲルと婚約してからは明るい色味の女性らしい格好をするようになった。まるでこの季節の花々のように、美しく綻んでいく恋人を見るのは何にも代え難い幸せだった。  普段は控えめで遠慮がちなナージュだが、テンゲルと二人きりになる時間はとても愛らしくなる。少しずつだがテンゲルに甘えるようになってきたナージュに、ああして欲しい、こうして欲しいと可愛く強請(ねだ)られれば全てその通りにしてやりたくなる。  ――昔、恋人に宝飾品を可愛らしく強請られれば全て買ってやりたくなる、と言っていた奴がいたが、今ならその気持ちが分かるな。……まあ、ナージュが強請ることはもっと違うことだが……。  むしろその方が好ましいとテンゲルは思う。  自分の前でだけ淫らな願いごとを口にする夜のナージュは、恐ろしくテンゲルの心をを掻き立てた。どんなナージュであっても全てが愛おしく、そして心が満たされるのだった。
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