アウインの行方 3

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 心身ともに充足する日々のお陰で、テンゲルは仕事により打ち込めるようになっていた。心の拠りどころがあるということは幸福であり、更なる飛躍につながるということをテンゲルははじめて知る。  テンゲルは立ち上がり、執務室の四隅に飾られた甲冑うち、ひとつの甲冑の前に近づいてその正面に立った。これはナージュが製作した例の式典用鎧だ。仕事中にも目に入るようここへと移動したのだが、正解だったと思う。常に目に入る位置に気分が盛り上がる存在があると、自然と仕事にも身が入るから不思議だった。  甲冑の胸元に並んだ藍宝石(アウイン)がきらりと光を反射させる。自分の目の色と同じ希少な石の不思議な輝きに魅入られていると、テンゲルはふとあることに気づいて藍宝石(アウイン)のひとつに触れた。  ――……? これは……。  ちょうどその時、執務室の扉が控えめに叩かれて、テンゲルは顔を上げる。 「将軍、フィードです。今お時間少しだけよろしいですか?」  少し焦った様子で、従騎士が扉の外から伺いを立ててきた。テンゲルは「入れ」と返し、入り口に向きなおる。 「失礼いたします」  そう言ってフィードは軽やかに執務室に入ってくると、甲冑の前に佇むテンゲルに傍に近づいて礼をする。それを目で追いながら、テンゲルはフィードの言葉を待った。しかし、言葉を選ぶように逡巡し口を噤んでしまうフィードの表情が複雑な色をしていることに気づき、テンゲルは訝しげに眉をひそめる。
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