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――ナージュ。何があった? 俺に会えないなどと。そんなことを言わざるを得ないことでもあったのか。
テンゲルはもやもやとした気持ちを押さえ込むようにぐっと拳を握り締める。
とその時、手の中に明らかな違和感を感じた。テンゲルははっとして、手を開いていく。
――そうか。そういうことか。
全てに合点がいき、テンゲルはいても立ってもいられずに身を翻した。
「将軍?」
「フィード、今日の執務はほぼ完了している。俺はこれから少し出かけてくるから、後は頼んだぞ」
「……畏まりました」
「いつもすまんな」
「……もう慣れました」
「頼りにしている」
突然気を取り直して、慌しく部屋を後にするテンゲルの様子に目を見開きながら、フィードはその大きな背中を見送った。
「ナージュ殿のこととなると、本当にお人が変わるな……」
普段は決して見せない余裕のないテンゲルは、どこか人間臭く感じて好感が持てる。それを知るのは傍で仕える自分たちだけだということが、何故かとても誇らしく感じるのだった。
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