アウインの行方 1

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 *  ――ともかく、今日は新しく書きおこす甲冑の図面をアイネルさんに持っていかなくちゃ行けないんだから。指輪のことは……後にしなくちゃ……。  ナージュはモヤモヤとする気持ちを抑えつつ、深呼吸してから作業机に向かった。だが、すぐに指輪のことが思い浮かんでしまい、深く溜息を吐き出す。  ――私って、本当に駄目ね。すぐ物を無くすし。部屋は汚いし。ラエルとシエロがいてくれなければ、食べることも二の次になってしまうし。  お腹がぐぅっと鳴るのを聞きつつも、ナージュはそれどころではなかった。頭の中は、指輪のことと図面のことで一杯だったし、なんせこのところ缶詰状態で作業をしていたこともあって、工房には食べる物がない。後で職人街に行くとき、途中で何か買って食べようとぼんやり考えながら、再び図面に向かった。  テンゲルの求婚から、早三ヶ月が過ぎようとしている。周囲が二人の背中をぐいぐい押してくることもあって、結婚式の準備は着々と進んでいた。  ナージュの希望もあり、式は大々的なものではなく、郊外のこじんまりとした教会で行われる予定だ。双子のドレス作りも佳境に入っていて、このところ二人の姿は見えない。  結局、ドレスはテンゲルの言う通り二着着ることになった。式の時には、テンゲルが仕立てた婚礼衣装を着て、お披露目会の時には双子が作ったドレスを着ることになっている。  ――驚かせたいから、前日まで見せないからね!  ――将軍もナージュもびっくりするような素敵なドレスを作るわ!  そう意気込む二人の姿が思い出される。ナージュは今から心臓が爆発しそうだった。まさか、本当に自分が結婚式を挙げる日が来るなんて、思いもしなかったから。  思えば、父と母にきちんと会うのも久しぶりかもしれない。求婚されてすぐ、テンゲルがどうしてもと言うので城下町の片隅にある実家へと二人で行ったのだが、父も母も相当驚いていた。無理も無い。男性に興味を示さず仕事に邁進し、男のように過ごし婚期を逃しつつあった娘が、まさか国の双翼である左岸将軍と結婚することになるだなんて。
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