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その日は簡単な挨拶だけですぐ帰った二人だったが、父も母も、いい大人である二人の結婚を反対するわけも無かったし、どちらかというとテンゲルの雰囲気に圧倒されて何も言えない様な、そんな気配だった。
学舎を卒業した後すぐに家を飛び出し、祖父の工房や職人街で腕を磨いてきたナージュにとって、父と母との関係は微妙なものだった。だが、こうして幸せになることを報告することができて心から良かったと思っている。それもこれも、テンゲルと出会えたおかげだった。
あの後母から手紙が来て、そこには結婚について父と喜び合っていること、そして式を楽しみにしていることなどが綴られていた。付け足すようにして「孫の顔も早く見たい」と書かれていたから、ナージュは急に恥ずかしくなってしまう。でも、それはテンゲルも望んでいることだった。
――早く、お前の子が欲しいな……。
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