アウインの行方 1

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 素肌で横になりながら交し合う睦言の中で、テンゲルがそう呟いたのを思い出して、ナージュは顔が熱くなるのを感じた。そう。テンゲルはたくさん子供が欲しいらしい。そんな具体的な話をするたびに、こんなに幸せでいいのか、と思ってしまうのは、幸せに対して臆病になっているからなのだろうか。  ――でも、私も欲しい。テンゲル様とのお子が……。  結婚もまだなのに。と二人で笑いながら語る未来の話に、ナージュはいつだって泣きそうなほど幸せな気持ちでいっぱいになる。  結婚を決めても、二人の関係性に大きな変化は無かった。テンゲルは国を守る将軍であったし、ナージュもそんな騎士たちを守るための甲冑を作る甲冑師だった。テンゲルの希望で、今は将軍専属、ということにはなっているが、いつか騎士隊の揃いの甲冑を、より良いものに変える仕事もしていきたいと思っている。  この結婚を決めた後、テンゲルから甲冑製作の依頼が早速入ってきたため、ナージュは相変わらず祖父の工房で作業をしていた。時折時間を見つけては会いにきてくれるテンゲルとの逢瀬を楽しみにしつつ、ナージュは馬上試合用の甲冑製作の製図に取り組んでいる。  馬上試合用の甲冑は少し特殊だ。上半身はほぼ全身鎧(フィールドアーマー)のものと同じだが、下半身の部分、特に鞍に座る部分が無い。それは馬に跨り操るときに邪魔にならないよう工夫されたものだった。そして今回依頼されたテンゲルの鎧も、その部分をいかに上手く工夫し、また見た目も美しくするかが最重要課題だった。
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