アウインの行方 2

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アウインの行方 2

 左岸将軍の筆頭従騎士であるフィードはその日、テンゲルからとある用を言付かって職人街に向かっていた。寒い季節が終わり、あたたかな季節へと移ろう穏やかな風が、フィードのさらさらとした栗色の髪を揺らしている。  城から職人街へと向かう石畳の道を行けば、お昼時特有の美味しそうな香りが鼻の先に漂ってきた。城の食堂で軽食を腹に収めてから出かけたフィードだったが、まだまだ若く食べ盛りの年頃だ。騎士隊の常装の上からぐぅっと鳴る腹を、苦笑いしながらさすりつつも先を急ぐ。  テンゲルは鍛治師のアイネルに新しい長剣(ロングソード)などを注文していた。数ヶ月前に鎮圧の完了したリュゲル地方での(いくさ)で、テンゲルは愛用の武器を多く失い、装具なども傷だらけの状態である。前左岸将軍シグルドが愛用していた鎧もまた修理の施しようがない状態になっていた。  テンゲルは次に起こるかもしれない戦に備え、早速新しい武器や装具、そして甲冑製作を方々で手配している。その使いのため城と職人街を行き来するフィードは、すっかり職人たちと顔馴染みになっていた。  ――お前が独り立ちした時、こういう面識は広く役に立つ。しっかり一人一人と会話をすることだ。  テンゲルの言葉は全てが学びとなった。フィードはテンゲルという将軍を心から尊敬していたし、その生き様や人柄は、人生をかけて背中を追いかけるに値するものだと、そう思っている。  フィードの父はシャーデン国の宮廷伯だ。国王の側近である父の後を継ぐことをずっと求められていたが、フィードはどうしても騎士隊に入隊したかった。
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