アウインの行方 2

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 それは、まだ将軍職に就いていなかった若かりし頃のテンゲルとリアンによる決闘(ジョスト)を見たことがきっかけだった。十年程前の騎馬試合。あの白熱した決闘(ジョスト)は、観戦した者全てを惹きこみ、血が滾るような熱狂的なまでの試合だった。  人生を変えるような出会いというのは、確かに存在する。フィードはその時まだ8歳かそこらだったが、そのことを強く感じたし、そして今もまた、それを実感している。そう、テンゲルが出会った美しい甲冑師のことだ。  浮いた噂の全くなかったテンゲルが恋に落ちた相手。名はナージュと言った。  過去から続く人間不信がきっかけで男のふりをしていたナージュという甲冑師は、清楚な美しさと柔らかな物腰、そして時折見せる仕草ですぐ女性であるとフィードは見抜いていた。  だが、テンゲルは全くもって鈍感だった。こと戦に関しては獣のような嗅覚と鋭さを持つというのに。ナージュが女性であるということに全く気がつかず思い悩むテンゲルを見ていると、フィードの悪戯心はくすぐられた。 (いや、本当に申し訳ないと思うのだが、将軍のあんな余裕のない様子を見るのは初めてだったから、つい何も言えず見守ってしまった……)  ナージュが女性だとテンゲルに伝えることは簡単だったが、ナージュ自身の気持ちを考えれば、それは絶対すべきではないと確信していた。本人たちが歩み寄り、互いに気がつくことが大切なのだと、フィードは思うのだった。 (まさか男性だと思い込んだままナージュ殿を好きになるとは……)  フィードはテンゲルという人物の実直な不器用さと、豪胆な性格に苦笑した。だが、だからこそ従騎士をはじめテンゲルに仕える者たちは、テンゲルを心から信じ、ついて行こうと思うのだった。
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