アウインの行方 2

3/6

627人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
(将軍が時折見せるようになった穏やかさは、ナージュ殿のお陰だな。これで、自分の命を少しでも大切にしてくれるといいのだが)  いついかなる時も、味方のために命を投げ打つ覚悟で戦いに挑むテンゲルのことを、人々は畏敬を込めて「鬼神将軍」と呼ぶ。今回の戦いでも、身を挺して弟の盾となった逸話はすでに国中に伝わっていた。  国民は安堵していることだろう。  命を懸けて国を守る強靭な将軍がいるということは誇らしいのと同時に安心感を生む。  だが、仕える身になれば不安の方が大きかった。いつかテンゲルがその命を国のために捧げるような事態が起こってしまうのではないか、と。だからこそ、テンゲルにとって愛すべき存在ができたことは喜ばしかった。  フィードは、ナージュの前で愛しげに目を細める強面の将軍の姿を思い浮かべ、小さく笑う。 (ナージュ殿の前では、将軍もただの男となるのか)  いつか自分にもそういう出会いがあるのだろうかと、不意にフィードは思い小首を傾げる。今のところそんな自分は全く想像できないでいるが。  通りを吹き抜ける一陣の風に髪が乱されるのを押さえながら、フィードは顔を上げて足早に職人街を目指した。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

627人が本棚に入れています
本棚に追加