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どうでしょう? この方法では「僕は」で始まる二つの文の片方の主語を文末に持ってくる、すなわち「僕は夜道を歩いていた」を「夜道を歩いていた僕は」にした上で、次の「僕は公園の入り口に一万円札が落ちているのを見つけた」の「僕は」に重ねてしまうことによって一つの文にして、二つあった「僕は」の片方を省略してしまったわけです。
小説がどの程度の技術力で書かれているかを判断するには、まず最初にこの「二つの文章を一つに繋ぐことによって、主語を省略する」という方法を多用しているかどうかをチェックするのが良いでしょう。もしも、調べた作品にこの技法が多用されているのであれば、作者は平均以上の文章執筆能力があると考えるのが妥当です。
何故なら、「二つの文章を一つに繋ぐことによって、主語を省略する」という方法は、脳内で二つの手順を経て書けるものなので、単純な省略に比べると難易度が高く、意図的に訓練しない限り身につかないからです。
逆の言い方をすると、この技術を使っている段階で、既に「分かり易い文章」からは逸脱していると見なして良いと思います。そして、少し残酷な言い方ですが「分かり易さ」を重視している作家が、この技術を自在に使えることはまずありません。
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