一、プロローグ・平成二十七年一月、森田望一

2/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 「ふふ、都会の女ってほど、大したものでもないよ」  そのあと、望一と美穂は、お互いの生い立ちについて話した。佃美穂は、横浜市内の中小企業の社長の一人娘で、婿捜しに大学に来たと明言した。子供の頃から学業の出来は良い方で、すんなりと公立の進学校に入り、そのあと現役で第一志望の東京のK大学に合格したという。K大学は、私立ながら日本有数の偏差値の高さを誇り、多くの有名人を輩出する。  その大学に同じく、北陸の田舎の進学校からストレート合格した望一も、なかなか優秀な成績ではあったが、生い立ちについては、あまり堂々と明言できぬことが多かった。生まれてこの方祖父母に隠されてきた出生の謎について、このときは望一は心の奥に押し遣って口に出さなかった。美穂には、早くに父母は亡くなったと言って、開業医をやっている祖父母に育てられたとだけ知らせた。  そのような話をしていると、宴の中から一人立ち上がって、叫ぶ者が居た。  「宴たけなわでは御座いますが、とりあえず中締めと言うことで、一次会は終了します。ひとり四千円ね」  そういって、その幹事の同級生の男が金を集め出した。  「美穂ちゃん、二次会行く?」  「ええ? 私、お酒弱いから辞めとくよー」  「そう、じゃ僕、駅まで送ってくよ」  そう言って望一は飲み会を抜け出し、駅までの僅か五分の道のりを、美穂と共に歩いた。  「美穂ちゃんて、高校でもモテたでしょう?」  心なし赤くなった頬にえくぼを作って、美穂は答えた。  「ええ? ぜんっぜん。なんで?」  望一は、すっかり良い気分になって、気が大きくなっていた。  「美穂ちゃん、今まで入学して二年間見てきたけど、とても可愛い美穂ちゃんに心底惚れたよ。僕と付き合ってくれないか」  美穂は、歩みを止めて、望一の方を振り向いた。  「ありがとう。……いいよ、私も森田君なら」  望一の心は、烈火の如く燃え盛った。  「ええ? 本当に良いの? ブラボー、美穂ちゃん! ありがとう!」  「よろしくね」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!