二、平成六年十二月、佐藤護

1/11
前へ
/14ページ
次へ

 二、平成六年十二月、佐藤護

初冬の北陸の夕方は、いつも雲が懸っていて薄暗い。日没も早く成りゆく折、護は冷えた身体を震えさせながら、自宅の玄関ドアノブ中央に付いた鍵穴に、合鍵を差し入れ拈り廻す。パチンという安っぽい開錠の音がしたのを確かめて、護は玄関ドアを引き開けた。  「ただいま」  いつもながら虚しい帰宅の挨拶が、コンクリート三和土のがらんどうの薄暗い玄関に響く。日暮れが早い冬の夕、帰ってきて玄関を開けて護が真っ先にすることは、外灯のスイッチを入れることであった。大抵の日は、母はこの時間には店に出ていて留守だ。店の定休日は水曜日なので、その日以外は護は母に顔を合わせずに済む。母は今晩もあの男と親しげに語らっているのだろうか、と護は思った。相手の男は、護はあまり顔を合わせたことがないのでよく知らないが、どこかの建築現場の作業員のような出で立ちをしていたのを覚えている。何度か、この家に来て一泊していった。そんなとき、護はどのように対処して良いか判らないので、自分の個室に引っ込んでいた。     
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加