二、平成六年十二月、佐藤護

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 父は、護が幼いときに浮気が原因で母と離婚したと聞いている。伯母が話すらく、「前田は、ふしだらな男でね。妹が離婚に追い込まれ、乱れた生活を送るようになったのも、みなあの男の所為だわ。護ちゃんも、前田みたいにだらしない男にならないでね」  外灯のスイッチを入れると、小さな平屋の公営住宅の玄関先の、灯籠を模した安っぽいプラスチックカバーは、無粋な蛍光灯の光に照らし出されて白く光った。公営住宅はバスの本数が一時間に一本の寂れた郊外に、開発に取り残されたように古ぼけた佇まいを構えていた。  この公営住宅は高度成長期に建築された安くなければ誰も借りないほど廃れた木造家屋で、平屋の3DKの棟が四列五戸計二十棟集合して建っていた。それぞれの棟に駐車場スペースがそれぞれ一台分ずつ付いていたが、時代遅れの棟棟に住む貧乏人で車を所持できる者は数少なかった。  もちろん、護の家にも車は無く、男が泊まっていく晩だけ駐車スペースが埋まった。  食事は、大抵はスーパーやコンビニの既製品が、冷蔵庫に買い溜めしてあった。     
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