第1話 「フリーターと黒い少年」

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 大きな揺れに、俺はハッと目が覚めた。いつの間にか居眠りをしていたらしい。  電車がレールの継ぎ目を刻む規則的な音と、車両の軋む音。車窓を飛ぶように流れる街の灯り。乗客もまばらな終電の車内。  聞き慣れた音と見慣れた風景。  俺は凝った首を擦り、ずり落ちそうなリュックを抱え直す。  ここのところ、コンビニの深夜バイトと就職試験が重なる日が続いたから、疲れが溜まっているんだろう。  ーーはあ、嫌になるよな。  俺は窓の外を流れる夜の街並みを眺めながら深い溜め息をついた。  車窓には、嫌というほど見慣れた顔が辛気臭そうに映っている。  不細工では無いが、特別に良いと言うわけでもない。自分で言うのもなんだが地味な顔だと思う。  女性や後輩からは『優しそう』とか『誠実そう』と言われ、友人からも『人の良さそうな面構え』、『余計なことまで背負い込みそうな顔』と言われる……まあ、悪人面じゃないだけマシだ。  しかし、最近自分でも疲れた顔をしていると感じる。  苦労して何とか大学を卒業したものの、折からの不況の影響で未だに定職に就けず。  工事現場の旗振りからファミレスのウエイター、コンビニの店員と色々なアルバイトで糊口を凌ぎながら就職先を探しているが、なかなか上手くいかない。  日々の生活がやっとで貯金もできないし、彼女なんて作る余裕がない。かといって、いまさら実家に帰るわけにもいかない。  そんなこんなでもう25歳。  いくらか持ち直したとはいえ、未だあの不況の影を引きずっている世の中。早々に就職できるとは思ってなかったけど……30歳超したら就職は絶望的って言うし、そろそろ決めないと本気で不味いよな。  ふと、視界の隅を何かが過った。  金色に光る……蝶? まさかな。疲れてるのかな? 俺。  ーーしかし、やけに静かだ。  いつの間にか車窓の風景は真っ暗になっていて、車両の揺れも止まり、規則正しく響いていたレールの音も消えている。  寝過ごして終点まで来ちまったか? いや、無いな。アナウンスは聞こえなかったし、電車が停車した感覚もない。  俺はふと車内に視線を戻した。
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