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なに言ってるんだ? こいつ。発狂とか怖いことを、さも当然のように……俺は愉しげに笑う少年に言い様のない恐怖を覚えた。
「まあ、いきなり言われても分からないね……結論から言うよ。カズマ、僕と契約しよう」
「……契約?」
足を組んで意味ありげな笑みを浮かべる少年。人を試すような事を言ったと思ったら次は契約?
「そう。契約。君と、僕との……ね。別に取って喰おうとか、何かを売り付けようとか、怪しい宗教の勧誘とかじゃないから、安心していいよ」
「そういう問題じゃないだろ。契約って意味分かってるか? 大体何の契約をするんだ?」
俺の問いかけには答えず、少年は足を組み直すと、微笑みを浮かべて指を鳴らした。すると、俺の手元に黒い表紙のノートと黒い羽のペンが現れる。
少年が指で宙を切るような仕種をすると、ノートの表紙がめくられた……何だか手品みたいだ。
そのノート書かれた一文に、俺は眉を顰めた。
ーー汝、己の思いを裏切る事なく、自ら選択し、力を尽くして生き、その生の結果を受け入れるべし。我、汝が定めを守る限りにおいて汝を守護し、その力となる。
「これは……」
「簡単に言うと、『自分の決めた事には最後まで責任を持ちましょう』って事。社会人として常識だよね?」
言っていることの意味は分かる。が、なんだか釈然としない……戸惑う俺に、少年は目を細めて言った。
「君は僕に選ばれた。だから僕は君と契約を交わすんだ。君は僕との契約を守る。契約が守られる限り、僕は君を守護し、君に力を貸す……不利益はないと思うけど?」
この少年が俺を選んだって? こんな子供が力を貸す? 見た目も雰囲気も普通じゃないが、まだ子供じゃないか。それに、不利益の無い契約なんてのがあったら、それは詐欺だ。
色々突っ込みどころが有りすぎる。真面目に聞く話じゃない。
だが、俺の体は俺の意思に反して動き、羽ペンを手に取ると、ノートに自分の名前を書き込んだ。
おい! 何やってんだ俺は!
「くくくっ……これで君と僕は『契約者』という深い縁を得た」
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