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「君はこれから様々な人々に出会い、色々な経験をして、その度になにかを選択する。その選択全てに意味があり、選択は因果となって必然を産み、必然は結果を導く。それが積み重なって運命となる。今の君は、今までの君の選択の結果であり、必然なんだ。言い方を変えれば、君の選択次第で運命は変えられる……心に留めておいて」
「ちょっと待て! 何言ってるのかさっぱりだ。お前、一体何なんだよ!」
叫ぶように問う俺。だが、ヴォーダンは涼しげな笑みを浮かべて席を立つと、胸に手を当てて優雅に一礼する。
「いずれ分かるよ……では、カズマ。君の道行きに幸あらんことを」
「おま……っ!?」
俺が何かを叫ぼうとした瞬間、電車が大きく揺れ、思わず目を閉じた。
……
……
……
……
ーー不意の揺れに、俺はハッとして目を覚ます。
電車がレールの継ぎ目を刻む規則的な音と、車両の軋む音。車窓を飛ぶように流れる街の灯り。乗客もまばらな終電の車内。
聞き慣れた音と見慣れた風景。
ただ、俺は全身にまるでマラソンで全力疾走した直後のような汗をかいていた。
さっきのは……夢?
『次は終点、博多、博多です。お降りの際はお忘れものの無いよう、お願い致します』
終点を告げるアナウンス。俺は長椅子にもたれかかると、大きく溜め息をついた。
ちくしょう……なんだか、疲れた。
会社帰りのサラリーマンや街に遊びに来た若者たち。様々に行き交う人々の波を抜けて駅を出た俺は、住宅街行きのバスに飛び乗った。
体が重い。アパートに帰る前にビールと乾きものでも買うか。こんな日は、1杯引っ掛けて早々に寝てしまうに限る。
バスを降り、近くのコンビニでポテトチップスと発泡酒を買った俺は、早足で家路を急いだ。雲間から覗く満月が人通りの無い住宅街を照らす……なんか、いつもより月が明るい気がする。
アパートに帰りつき、部屋の鍵を開けると、玄関に何通かの封筒が落ちていた。宛先はどれも以前面接を受けた会社……これは採用試験の結果通知だ。
いつもならすぐに開けて内容を確認するのだが……今日はそんな気分になれない。
スーツを脱いでベッドに放り、ネクタイを緩めて床に腰を下ろした俺は、取り敢えずビールを開け一気にあおった……ふう。ようやく一息ついた気がする。
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