傷口に花束を

18/37
前へ
/344ページ
次へ
ただ、誤算であったのは、暗示のかかりがいまいちだったのか、忘れられない体質との相性が悪すぎたのか、若しくは全く別の要因か、確実なことは分からないが、元の高臣といびつに成長していく高臣がまるで多重人格の様に強く出たり影に隠れたりしていた。 その中で、出た気まぐれが雪弥の件だった。 気まぐれだった。 その筈だった。 勿論、あの時の声が雪弥のものだという事も理解はしているが、だからといってなんだ。 ただ、雪弥が襲われているという事実が、あの時ひたすら気にくわなかったのだ。 高臣には守らなければならないものが沢山あって、それなのに守り切れず、結局あれから和亥のことも放置していて、本当であれば、雪弥に気をかけている余裕なんて無かった筈なのだ。 暗示をかけられていようがなんだろうが、高臣は高臣だ。 守りたいものを守るための準備ばかりに日々過ごしていたのだ。 だから、雪弥という無関係のものを招き入れるつもりも、ましてや、好きになるつもりなんて高臣には無かった。 だから本当に単なる偶然なのだ。 「巻きこんでしまった責任はきちんと取ります。 北堀君とその家族の生活と安全も保障するよ。」 雪弥は話して貰ったことの、本当の部分は半分も分かっていないだろうという事を自分自身で理解していた。 分かったことは、有馬高臣という男が安居院家の人間で大変な思いをして生きてきた事、その争いに巻き込まれてしまったこと。     
/344ページ

最初のコメントを投稿しよう!

740人が本棚に入れています
本棚に追加