傷口に花束を

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それから、自分では運命の出会いだと信じて疑わなかったものが、そもそも正嗣との出会いでは無く、単なる偶然の勘違いだったということ。 それでも、高臣の過去を聞いたことに後悔は無かった。 巻きこんでしまったのは雪弥も同じだった。 高臣に助けられた時のことを、美化して、西園寺に入れあげて、彼を巻きこんだ。 色々な人達を巻きこんで、無自覚に甘えきって迷惑をかけた。 それでも、いや、それなのに、高臣は雪弥に申し訳ないと、巻き込んだというのだ。 それだけは違うと雪弥には分かっていた。 それから、そんなことは全部関係なく、今の気持ちはただ一つ。 ドキドキと早鐘を打つ心臓を手で押さえる様に雪弥は胸を押さえた。 「西園寺様ときちんと話したら、有馬君に聞いて欲しいことがあります。」 けれども、今のままじゃ駄目なことは分かっていた。 勘違いから始まったとはいえ、正嗣をずっと見ていて憧れもあったし確かな思慕はあったのだ。 形だけとはいえ親衛隊の長であるし、まずきちんと清算してからだと雪弥は考えた。 といっても、こんな自分を高臣が受け入れてくれるとは思っていない。 とんだお荷物だろう。 それでよかった。 充分だと思った。 雪弥はようやく、高臣に笑いかけた。 それをみて、高臣は目を細める。 少しだけ見せてもらえた高臣の本当の部分は、雪弥にとって宝物となった。
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