傷口に花束を

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「病院に運ばれました。重症ですが命に別状は無いと報告が入っています。」 「そうか……。」 高臣は静かに息を吐いた。 自分のことを王様だと思っている子供が何をするかは分かりきっていた。 それでも、高臣は雪弥をとるしかなかったのだ。 恐らくそれを猛は分かっていた。 昔から甘えてばかりだったと高臣は思う。 「俺は、俺がやるべきこと、やれることをやろうと思う。」 電話越しに、笑う声が聞こえた。 こんな時に笑うべきではないのかもしれない。 けれど、那智の嬉しそうに笑った声が確かに聞こえた。 「車を回します。あなたに渡したいものがありますし、悠長に体制を整えてなんて絶対に言わないでしょうから。」 那智に言われ、了承した高臣は通話を終了した。 何気なく触った手首には腕時計は無く、自分の行動にギクリとした。 あれが、高臣が普通の生活を送る為に作られて、そしてそれが歪められたことにはもう気が付いていた。 けれど、無意識とはいえまたそれを頼ろうとする自分の行動にいい加減嫌気がさした。 苛立ちを紛らわすために、高臣は一度だけ舌打ちをした。
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