傷口に花束を

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そう言うと、高臣は腕時計を自分の腕につけた。 「俺は、全部をぶち壊せるかな。」 「やってもらわないとこっちか困ります。」 「和亥は元気にしてるかな?」 「今は全寮制の学校に通わせてますよ。相変わらずのようです。」 「なあ、なんで俺はこんなにも弱いんだろうな。」 「価値観の問題ですね。弱いのなら今すぐ強くなってください。」 「何で、俺は北堀雪弥を愛してしまったんだろうな。」 そこで、那智の口は動くのを止めた。 「多分あなたは、一生で一人の人としか恋愛できないでしょうね。」 ややあって那智がようやく口にしたのはそれだけだった。 雪弥への恋心は一生忘れることが出来ず鮮烈なまま高臣の中に残るだろう。 その想いを忘れることが出来ない高臣がもし別の人間に恋をしてしまったら、恐らく高臣の心は壊れてしまうだろう。 「俺は、月のようにお前を照らして支えてくれる人と人生を歩むほうがいいと思うけどね。」 那智は言った。 それは、アンバランスな高臣が幸せになれる唯一の方法だったのかもしれない。 けれども、高臣はそれを聞いて困った様に笑った。 「北堀君は、そうだな、彼は北極星なんだよ。」 そう言って、初めて高臣は双眸を下げた。     
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