傷口に花束を

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雪弥はとあるバーの前に立っていた。 西園寺正嗣の元へ行きたいと、高臣につけられた大人に伝えると現在の居場所として指定されたのがここだったのだ。 本当に自分は誰のことも、正嗣のことも知らないなと思った。 正嗣が放課後何を好み、どこで過ごしているかなんて碌に考えたことは無かった。 ゴクリと唾を飲みこみ、その店へ足を踏み込む。 制服だったにも関わらず、とがめられることは無かった。 そもそも店員らしき人間が見当たらないのだ。 中で話していた人間の視線が一気に雪弥に集中する。 居心地は最悪であったが、雪弥は息を静かに吸い、それからこちらを見ていたうちの一人に声をかけた。 「西園寺正嗣さんと話がしたいのですが。」 震えるかと思われた声は、静かに響く。 雪弥は自分でも驚く位、冷静な対応ができている。 「お前は誰なんだよ。」 「北堀雪弥といいます。西園寺様につたえていただければ分かると思います。」 雪弥の答えに男は舌打ちをする。 それから、わざとらしく音を立てて立ち上がると奥へと向かっていきスタッフ専用と思われたドアを開けて中に入っていった。 しばらくすると戻ってきた男は、雪弥を訝し気に見た後、「そこの奥に居るから、行け。」と言った。 雪弥は頭を下げるとドアを開けた。 「ああ、アンタらは駄目だ。」 雪弥についてきた大人達に男は言った。 雪弥は大人達をチラリと見ると、軽く頭を下げて扉を閉めた。 状況はあまり良くないのだろう。 殴られるかもしれないし、怪我をするのかもしれない。 けれど、それを仕方のないこととして許容している自分がいることに雪弥は気が付いていた。 もう逃げたくないという気持ちが強かった。 高臣と再び対面した時に自分自身に恥じないでいたいと思った。 スタッフルームがあると思われたそこは、2階へと続く階段がある。 一歩一歩上がっていくと、さながらクラブのVIPルームを思わせる部屋があった。 といっても、雪弥はクラブに行ったことは無かったので、ただ見たことの無い内装にあたりを見回しただけだった。
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