傷口に花束を

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正嗣は奥のソファーで一人ぐったりと横たわっていた。 雪弥がの視線に気づき体を起こす。 手首には包帯を巻かれ、顔に傷があるらしくガーゼが頬に貼られている。 痛々しい姿に雪弥は歯を食いしばる。 「何の用だ?」 正嗣は問う。 雪弥は頭を下げた。 それから顔を上げ、真っ直ぐに正嗣を見据えた。 雪弥の面構えに、正嗣はいささか驚いた。 雪弥という人間はこんな顔をする人間だっただろうか。 最初に挨拶に来た時も、それから二人きりで偶然顔を合わせた時も、そして親衛隊として他の生徒と並んでいた時も、雪弥はずっとおどおどと不安げで困っている様に見えた。 けれど、いま、正嗣の目の前に立つ雪弥にそんな様子は無かった。 真っ直ぐに正嗣を見る雪弥は凛としていて、親衛隊持ちにも引けを取らないと正嗣は思う。 「ぼ……、俺は、俺のことを助けてくださったのが西園寺様だと思って親衛隊に入隊しました。」 「そうか。」 「だけど、西園寺様の仕事ぶりを見て、すごいなと思って、尊敬しておりました。」 雪弥の瞳には涙が滲んでいた。 しかし、涙は零れ落ちなかった。 「好きでした。」 雪弥の声は正嗣に確かに届いた。 けれども、正嗣は何も応えなかった。 「俺の所為でご迷惑をおかけして、済みませんでした。」 雪弥が再び頭を下げると、正嗣は自分自身の眉間を指で押さえた。 それから、一言「わかった。」とだけ言った。 「後は俺が何とかする。」 正嗣は馬鹿にする様ないつもの話し方では無く、真剣に伝えた。 「それで、有馬高臣と付き合うのか?」 「さあ?」 雪弥は答えた。 「多分、有馬君はそれを望んではいないでしょうし、俺に彼を支えられるとは思いません。」 それに、きっと周りからは大反対されますよ。 そう言って雪弥はようやく笑った。 今から、そう言いかけて正嗣は止めた。 今更言っても仕方がないことだった。 「学園で、お前のことを庇ってやるつもりは無い。」 「分かっています。」 「……今度ゆっくり、話でもしよう。」 「……っ!ありがとうございます。」 雪弥は、それで一粒だけ涙をこぼして正嗣の元を後にした。
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