高校生響 第1章

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無意識にセーターの袖の中に入れていた手を振って出す。 蓋を開けて椅子に座った後、軽く手を振って指先に血が回るようにする。 昼休みの音楽室って時間が止まっているようだ。 ……なんとなくだけど。 その止まっている時間を動かすようなイメージで鍵盤に触れた。 月光第一楽章。そんなに難易度は高くないけどこの曲は厚みがないと格好がつかない。 左手を響かせるように。2月の凍った音楽室の空気を動かすように。 そのまま第二楽章を弾き第三楽章に入った。 このソナタのなかで最高難度を誇るこの章は意識していないと左右のバランスが崩れそうだ。 ……なんでだろう。 指を回そうとすればするほど固まっていく気がする。 練習不足もあるだろうけど曲に入っていけない。 それでも最後まで弾ききってやろうとした時、 「ねぇっ」 え? 「肩に力入りすぎ……それで音が硬いってば」 いつの間に。
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