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伊織に襲われたのは金曜日の夜。
あの後、伊織が帰ったことに気がついた芹香がリビングを見に行くと兄はおらず、バスルームからシャワーの音が聞こえたので風呂に入っていることを知った。何を話していたのだろう、とは疑問に思いながらもきっと大事な話をしていたのだろうと考え、兄がひどい目にあっていたことなど想像もできない。
幸いにも物音や奈緒の声は芹香の耳には届いていなかったらしい。
しかし風呂上がりの兄に話しかけても生返事しか返ってこないことには不安を抱いた。
ひどく疲れ果てた表情をしており、風呂上がりだというのに血色もそれほど良くないように見る。声にも覇気がなく、暗い光を宿す目は伏せられている。
「お兄ちゃん?どうしたの・・・?何かあったの?」
「・・・ごめんな、もう寝る。ちょっと疲れただけだから心配すんな」
疲れただけ、とはとても思えない。
…苦しそう。芹香は思った。
けれど兄の雰囲気がいつもより拒絶的で、近づくなと細い肩が暗に語っていた。
時折兄は学校で何かあった時自室に籠もってしまう。そんな時兄に無闇に話しかけても、力にはなれないことを芹香は幼くして知っていた。
不安と心配を瞳に宿しながらも芹香も自室へと戻る。
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