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土日をほとんど部屋に篭りきりで過ごした奈緒は、月曜日のろのろといつも通り登校した。数日前一挙に押し寄せた別世界のような言葉と事実、父親の素性、身の危険。・・・痛み。
それら全てが現実感を伴わない悪夢のようにふわふわと脳内で浮遊している。
週末父親は一度も帰宅せず連絡もなかった。こんなことは初めてであり、やはり異常事態なのだろう。
このまま普通に登校しても良いものか、芹香に何も伝えなくて良いものか悩んだが、どうにもしようがなかった。マフィアなどという物騒でどこに潜んでいるかもわからない組織に狙われているのなら、逃げても助けを求めても無駄だろう。
伊織というあの男に奈緒と芹香の身の明暗は握られているのだ。
「父さんは急遽出張が入ったから、帰ってこれないってさ」
そう言って芹香を小学校へ見送った後、奈緒も学校へ向かった。
突然カラオケから出て行ってしまったため心配したのだろう、大丈夫かという隆明からのメッセージがスマホに何件か入っていたが、この数日間何も返していない。下駄箱で靴を脱ぎながら、謝らなければなと思っているところへ丁度隆明が姿を見せた。
「奈緒おはよう」
「ん」
「金曜何かあったのか?」
「ああ、そのことなんだけど」
芹香が体調を崩したみたいで帰ったんだ。急に帰って悪かった。そう無難な言い訳と謝罪をしようと口を開いたところで、下駄箱に靴を入れようと隆明が隣に立ち、彼の影が奈緒に落ちた。
奈緒はびくりと隆明を見上げて硬直し、口をつぐんだ。
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