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隆明は奈緒よりやや背が高くがたいもいい。その体格を生かして昔からスポーツに勤しんでいたくらいで、今もサッカー部でエースとして活躍している。
隆明の顔は、奈緒の隣に立つと奈緒がわずかに目線を上げるほどの場所にある。
そしてそれは丁度、先日奈緒を犯した伊織と全く同じくらいの高さだった。隆明の体が真横に来た途端奈緒の脳裏に鮮明にあの時の記憶が蘇った。組み敷かれ見下げられる時の伊織の冷たい瞳、無慈悲に体を抑え付けられる息苦しさ、もがいても抗っても逃れられない恐怖、そして暴力的な痛み。
奈緒は思わず体を硬直させ言葉を続けることができなくなった。
突然黙りこくってしまった奈緒を怪訝に思い、隆明は何気なく奈緒の顔を覗き込んだ。
「!!」
どんっ
奈緒の手が隆明の胸を押し、半ば突き飛ばす形で距離をとった。それは反射的な行為だった。
「え」
予想だにしない行為に隆明が目を見開いて惚けた声を出す。奈緒も自分が何をしているのかよくわかっていないようで、驚いて目を瞬かせている。その顔は血の気が失せ、何かにひどく怯えているような表情だった。顔を覗き込まれた時、伊織の顔が重なったのだ。
「わ、りぃ」
「奈緒・・・?どうしたんだよ」
「なんでもない」
なんでもないはずがない。普段は気だるげながらも悠々とした態度で余裕があるというのに今日の彼は違う。誰の目から見ても奈緒の様子はおかしく、いつにも増して白い顔に隆明は顔をしかめた。
「どう見ても、なんでもなくないけど」
「ちょっと、体調悪いだけだから。先に行く。」
奈緒は抑揚のない声でそれだけ告げると、隆明のそばを過ぎて教室へと向かってしまった。その後ろ姿を隆明はしばし見つめる。
金曜日に妹からの連絡を受けて慌てて帰ったと思ったら、今日まで何の連絡も返さず、ようやく会えたと思ったら様子がおかしい。この数日間で何かあったのではないか、という結論が導き出されるのにそう時間はかからなかった。
何か事情があるにせよ、奈緒に怯えられ拒絶されたことも、胸にすぎりとした痛みを与えた
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