809人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ
「んなことより、桜庭の共謀者に心当たりねーの?」
短くなったタバコを据付の灰皿にぎゅっと押し込みさり気なく話題を変えると、男はけらけらと軽薄そうに笑った。
「幹部のお偉いサンがスパイだったんだぞ?心当たりどころかもう誰も信頼なんかできないさ」
「は、確かにな」
「俺や伊織みたいに命令に従って暴れてりゃいい身分は気が楽で良いな」
気が楽だ、というのは疑われなくて済むからだという意味だ。伊織もこの男もクヌギの末端に位置する下っ端であり、機密も知らないし内部情報をよく知るわけでもない。つまり何をしようと組織に打撃を与えるような裏切り行為にはなり得ない。
命じられるまま敵や邪魔者を暴力で薙ぎ払うだけの存在。
傭兵、とでもいえばいいのだろうか。報酬で結ばれただけであり組織に対する忠誠心や信頼関係はそれほど無いのである。
桜庭の手引きをできるような立場にもいない。よって疑われることがない。
最初のコメントを投稿しよう!