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いくら隆明が幼馴染で、母親が出て行ってしまった家庭事情や芹香を酷く気にかける性質など奈緒の事をよくわかっているとしても、金曜日の出来事を話せるわけがなかった。
父親が実はマフィアの幹部で、
父親が組織を裏切って拘束されて、
芹香や奈緒の身が狙われて、
見逃してやるかわりだと言われ組織の男に抱かれた…
などという超展開口が裂けても話せない。隆明を心配させてしまうことは心苦しかったが、どれほど詮索されても奈緒は説明する気にはなれなかった。
隆明も納得はいかなかったがさすがにそれ以上問い詰めるのはやめ口を閉ざす。2人して校門を右に曲がり、微妙な空気のまま歩く。
「…そうだ、今週末試合あるんだけど」
「マジ?」
「うん。俺今回出るし暇だったら応援来ない?芹香ちゃん連れてさ」
「……いいな、それ」
隆明は小学生の時からサッカー一筋で、奈緒は昔からよく彼の試合の応援に赴いていた。試合には隆明の両親も来ていて、いつも応援ありがとねと歓迎してくれる。芹香も隆明のことをアキお兄ちゃんとよんで第二の兄か何かのように懐いており、彼の試合があると聞くと行きたい行きたいといつも目を輝かせる。だから奈緒は隆明のサッカーの試合を観に行くのは好きだったり
芹香も喜ぶし、自身の気を紛らわすことも出来そうだ。
「来るなら場所と時間送る。」
「行く。頑張れよエースさん」
「あはは、奈緒が応援来てくれんならマジで頑張るよ」
並んで歩きながら、そこで今日初めて奈緒はリラックスしたような笑みを浮かべた。
浮かべて、その笑顔は凍りついた。
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