硬直

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隆明と連れ立って歩いているとき、奈緒の目に映ったのは、伊織の姿だった。車道を挟み2人のいる歩道と反対側歩道に立っていた彼は、奈緒が気づいたのを見て人差し指で地面を指し、こっちへ来いと示してきた。 奈緒は心臓が縮み上がるような恐怖感に囚われる。条件反射のようなものだ。あの男からは逃げられないという絶望感。顔から血の気が引くのが自分でもわかった。 けれど逆らうわけにはいかない。隆明が戸惑うのも構わず先に帰れと強引に促し、奈緒は車道を横切って言われた通り伊織の元へと向かった。 足は重い。けれど止まることは許されない。 やや着崩されたブレザーの制服、ゆるく結ばれた傷みの少ない金髪。普段は気だるげでどこか余裕を含んでいる雰囲気の彼が、今は唇を噛み締め警戒心と怯えを押し隠しながら近づく様を、伊織は満足げに見ていた。 「…は、自分の立場がよくわかってるようだな」 「…」 「こっちを向け」 俯く奈緒の顎を掬うと、触れられたことでびくりと奈緒の方が跳ねた。顔は伊織の方へと強引に向けさせられ、奈緒の整った顔立ちが怯えとなけなしの反抗心で歪む様がよく見える。伊織のうなじをゾクゾクと快感がのぼる。 まただ、この支配欲が満たされる感覚。恍惚。 伊織は決してこれまで加虐趣味の変態というわけではなかったが、奈緒を前にしているとどんどんおかしくなってゆく。
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