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伊織が暫し手を止めたので、奈緒は少しばかり気が緩む。圧倒的な身体能力と体格の差を持つ相手に、有無を言わさず貪られるほど恐ろしいことはなかった。
けれどもちろん、これで終わりではない。奈緒のやめてといういじらしい懇願をあっさり受け入れるほど彼は理性的でも紳士でもないのだ。
「だったら手でしろよ」
そう言って彼は体を押し返そうと胸板にあった奈緒の手首を掴む。一般の男子高校生からしてみればそれほどでもないが、伊織にしてみればどうにかしてしまいたくなるような細さだ。ぎゅっと掴まれ、形の良い奈緒の指が強張った。
伊織は奈緒の体の上から退き、そのまま掴んでいた手を強く引く。奈緒は革張りのシートの上に上半身を起こされ、戸惑いながら伊織を見つめた。
ゆるく結ばれていた金髪が乱れている。
「早く」
「…っ」
「コレで満足させろ」
掴まれた手首が痛い。
奈緒の目が大きく見開かれた。伊織の命じていることを悟ったからだ。
後ずさろうにも後ろはロックのかかった無機質な車のドアの感触がするだけ。逃げ場はない。何も言えず押し黙っていると、伊織はその鋭い瞳を細めて意地の悪い笑みを浮かべる。
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