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…奈緒が昔付き合っていたあの子達は、どうしていただろうか。嫌でも、記憶を頼りにせざるを得ない。
抵抗を捨て伊織のものを取り出し、直に触れる。自分のものとはちがう緩く立ち上がったそれを握ると熱く脈打っていた。
根元から軽く律動を加え、指の腹で摩擦する。その慣れない手つきに、もどかしさなどよりも背徳を感じ、伊織は湧き上がる興奮を抑えられなかった。
伊織とは住む世界の違う白い存在。さっきまで普通の高校生活を謳歌していただろう。
「もっとしっかり握れ。」
「く、そ…」
悔しげに悪態を漏らすも、逆らうこともできず言われた通りに力を込める。綺麗な手が裏側の筋をなぞり上下に刺激を与えると、一瞬伊織の吐息が乱れる。
もっと、という意識が働き伊織は奈緒の掌を上から包み上下に動かす。先ほどより増した激しさについて行けず、奈緒は息を飲む。
…手の中が熱い。奈緒は戸惑いながら、なすすべもなく手を動かされた。
自身より細く柔らかい奈緒の掌に包まれ、その摩擦が伊織のそれをより硬くさせていった。
伊織の表情が愉悦に濡れる。奈緒にとっては恐ろしく、冷酷にさえ見える精悍で鋭い顔立ちに少しだけ色気が滲む様に奈緒の視線が吸い込まれる。
その時。
車のそばであはは、と笑い声がした。
不意をつかれたのか奈緒はびくっと肩を跳ねさせ手を止める。車の窓の方を見上げると、伊織と同じブレザーを着た学生が数名、車のそばを通るのが見えた。奈緒が伊織に奉仕をしている時、ほんのドア一枚隔てて学生たちが行き交っている。
スモークを貼っているため外からは車内が見えないが、覗き込まれたら見られてしまうような危機感があった。
「っ…」
通り過ぎる学生たちの気配に硬直した奈緒は、集中力が途切れた。バレるのではないかという恐怖で動けず伊織を見上げる。
その瞳は揺れ、無意識だろう、助けを求めるような哀れっぽい表情を浮かべた。
「っ…おいおい」
どんだけ煽るんだよ。
その表情は同情心を誘うのと同じくらい、伊織の理性を持って行くものだった。
伊織の瞳孔が余裕をなくしたように開き、親指が奈緒の下唇にかかる。
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