詰問

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隆明が奈緒への想いを自覚したのは数年前、中学生の時である。 元々奈緒は小学校二年生の時にこの地区にやってきた転校生だった。幼かった故、初めて見たときのことは詳細には覚えていないが、綺麗な子だなという印象を抱いたとは思う。転校したての奈緒は大人しくはあったが運動も勉強もでき、見た目も既に整っていたので、華があるという言葉が似合う子供だった。まぁ、その点では今と同じだ。 いつもボールを追いかけて校庭を走り回り、喧嘩をしては傷ばかりこさえる自分とは何もかもが違う。関わることなどないだろうと幼心ながらに考えたものだが、帰り道が同じ方向というささやかな接点から隆明は奈緒と話すようになった。 より親密になったきっかけは、奈緒が転校して来てか ら半年ほど経った頃のある事件。放課後サッカークラブの帰り道、隆明は奈緒が怪しい男に腕を掴まれ連れ去られそうになっている光景を目にした。抵抗するすべも無く車に押し込まれそうになっている姿を前に、隆明は最近学校で配られた不審者注意のプリントを思い出しパニックになりながらも、なおーー!と大声で叫んで防犯ブザーのピンを抜いた。犯人は驚いて逃げ出し、後に無事捕まった。隆明のお手柄である。 …こういうわけで隆明は奈緒を助けたことがあり、その時がきっかけで随分仲良くなったのだ。
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