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高校に進学し、髪はそのままだがだいぶ素行の落ち着いた今でも彼は奈緒のことが好きだった。本人に悟られないよう笑いながら、それでも片想いを募らせる。ぶっきらぼうながらも妹と友人思いで、なんでもソツなくこなす事を鼻にもかけず、ゆるりとした空気をもつ奈緒のことが好きで、大事で。だからこそ隆明はここ数日の奈緒を思い出し、正気を失いそうだった。
合コン中に血相を変えてカラオケを飛び出したり、下駄箱で隆明に怯えたり。昨日などは下校中に先に帰れと隆明の背を押して、蒼白な顔でどこかへ行ってしまった。
あまりに様子がおかしく、心配で仕方がない。
今日こそは、今日こそは奈緒に訳を聞く。隆明はそう意思を固めていた。
「奈緒。」
「…ああ、おはよ。」
朝、決意と共に隆明が教室に入ると奈緒は先に登校しており、席についてスマホをいじっていた。その様子は昨日のことなど何もなかったかのように平然としていて、少し拍子抜けしてしまう。
…まぁ器用な奈緒のことだ、隠すのが上手いだけなのかもしれない。
「?なに」
「……奈緒、昨日どうしたんだ?」
「別に、何もねぇけど」
奈緒は表情を変えず言ってのける。そんな風に言われてしまうと、どう切り出せば良いのかわからなくなってしまう。隆明は肩に下げたカバンの持ち手をぎゅっと握りしめる。
「あのさ、俺の勘違いならいいけど、」
「…」
「最近奈緒、」
変だけど何かあった?そう言おうとして口を噤んだ。
彼は見てしまった。
…見てしまった。
奈緒の首筋に、チラリと覗く赤い花。
かっと一気に頭に血が上った。
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