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――五年後――
ショッピングセンターのフロアガイドを見ながら、浩史は妻の美春がお手洗いに行ったのを待っていた。
まったく、女ってやつはどうしてこうもトイレが近いのだろう。
いつものことながら、この時間がもどかしい。
しかも女子トイレというのはいつだって混んでいるのだ。
待たされるくらいなら本屋に立ち読みでも行こうものなら怒られるし、イライラすれば倍以上で返ってくるのが嫌で、浩史はおとなしく待つ以外の方法を見つけられていない。
トイレの入り口付近に目をやった。
まだ美春の姿はない。
軽くため息をついて、近くの長椅子に腰掛けると、行き交う人をぼーっと眺めた。
カートに山のように買い物したものを積んでゆく家族連れが目に入る。
自分たちももうフロアをだいたい回ったし、後は食料品を買って帰るか、と、エレベーター横に貼りだしてある特売品の広告を見ようと立ち上がった。
「……浩史?」
背後から自分の名前を呼んだ声は、美春ではない別の人からのものだ。
だが、明らかに聞き覚えのある声――。
顔を見ずとも声の主が誰なのかを認識した浩史は、身体中の毛穴が開いた。
汗が出るのを感じながら、おそるおそる声のした方へ身体を向けた。
「久しぶりだな」
やっぱり由香里だ。5年振りの再会だった。
あの頃と全く変わっていない。
5年という年月を忘れさせるほどだった。
目を引く容姿は相変わらずで、自分は30代に入り、少し歳を重ねた印象が否めないだけに急に恥ずかしくなった。
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