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「玲香の言葉がさ……」
夜斗が小さな声でつぶやいた。
「ん?」
真壁が聞き返す。
「玲香が泣きながら言ったんだよ……。“いつも罪悪感と孤独に溺れながら黒い部屋の中で息もできなかった”って……。“自分には手に入れられない愛情を深雪は手に入れて、毎日楽しそうに生きてた”って……」
夜斗の寂しげな表情を見るのは五年ぶりぐらいだった。
深雪に会わなくなってから夜斗はいつも真壁に電話しては深雪の状態を確認していた。心の底では心配していてもなかなか会いに行ってやれない事を悔やんでいた。
真壁と同じで、夜斗もまた深雪の事を妹のように思っていた。
「玲香も……深雪ちゃんの一部なんだよな……」
そうつぶやいてマグカップを手に取った。
「ああ……」
「俺たちの気持ち…届いてなかったのかなぁ……」
「そんなこと無いさ。ただ……玲香が見て、感じてきたことが…俺たちの気持ちよりも重くて、深い傷になってただけだよ……」
冷めたコーヒーを飲み干すと、夜斗は寂し気に窓の外に降る雪を見つめながらまたつぶやく。
「また会えるかな…玲香に……」
真壁は黙ってしまった。
『会えるよ』
そう言える自信はない。
また黒い部屋で孤独に溺れているかもしれない……。
そう思うと、言葉は出てこなかった。
次に出てくる人格が深雪であることを祈りながら、真壁はソファから立ち上がった。
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