迷子のカナリヤ

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思いがけない叫びに3人は目を丸くした。 「ヤバいのが来たね…これ」 夜斗が苦笑いを浮かべる。 翔真は目を閉じて額に手を当て、これまで吐いたどんなため息より大きいため息を吐き出した。 もうなりふり構っていられなかった。 覚悟を決めるしかない。 あとで真壁に何をされようと、自分がしてきたことはそういうことだ。 背後から抱きしめてくる彼女の腕を引っ張ると、思いっきり身体を引き寄せる。 彼女の顔が見えた。 右手で彼女の腕を引っ張り、左手を腰に回してしっかりと抱きしめる。 腕の中に納まった彼女の頬に右手を当て、そのままくちびるを塞ぐ。 「え……」 夜斗が口を開けたままその光景を見ていた。 真壁はショックで額に手を当て、目を逸らす。 着地点なんて見えてなかった。 翔真はなんとか彼女の行動を抑えたい一心だった。 徐々に押し当てたくちびるが、抵抗するような……。 なんだか動きがぎこちない気がして、目を開けて彼女の表情を窺った。 彼女の瞳に涙が浮かんでた。 思わずくちびるを離す。 彼女はすぐに左手で口元を隠して、怯えた表情をして涙を流した。 その表情に翔真の胸が張り裂けそうになる。 彼女の頬に手のひらを近づけた。 触れるか触れないかの距離……。 彼女は涙を流しながら翔真を見つめて、その手に頬をすり寄せた。 「ははっ……」 思わず笑ってしまった。 翔真は涙を浮かべて笑った。 そして愛しさがこらえきれなくなって…彼女の額に自分の額を重ねた。 「おかえり」 翔真がつぶやくと、彼女も涙を流しながら笑った。 「……ただいま」 深雪が……帰ってきた。 嬉しくて真壁や夜斗の存在を忘れてしっかりと腕の中に抱きしめた。
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