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迷子のカナリヤ
2階の寝室に入ると深雪が寝返りを打ったところだった。
真壁は思わず身構えた。
次の人格がどんな人格か分からない。
警戒しながらベッドに近づくと、目を開けた彼女は言葉もなく辺りを見回した。
真壁の顔を見て目を大きくし、布団を顔の前に引っ張り上げると勢いよく壁際に寄った。
壁に背中をぶつけ、ドンと音がする。
夜斗が驚いて部屋に入ってきた。
「どうした?」
そこで見たのは怯えた表情をして壁際で震える深雪の姿をした『誰か』だった。
「キミは…誰だい?」
真壁がゆっくりと声を掛ける。
彼女は小さく横に首を振りながら、布団で顔を隠した。
夜斗もベッドに近づいてきた。
「僕は真壁っていうんだ。で、こっちは大江夜斗。さあ、君の名前は?」
真壁がゆっくり手を差し出すけれど、彼女は頭を横に振ったまま何も言わない。
「まさか……」
真壁がうなだれて頭を下げた。
「なんだよ」
夜斗が真壁の腕を肘で突いた。
大きなため息が部屋の中に響いた。
デジャヴというのはこの事だろうか。
真壁の記憶は過去へと飛んでいく。
深雪が初めて真壁の事を「真壁先生」と呼ぶ前の記憶……。
「失声症か……」
頭を抱えた真壁がつぶやいた。
夜斗にも聞き覚えがある。
夜斗もまた同じように記憶をさかのぼり、頭を抱えてうなだれた。
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