迷子のカナリヤ

1/7
238人が本棚に入れています
本棚に追加
/239ページ

迷子のカナリヤ

2階の寝室に入ると深雪が寝返りを打ったところだった。 真壁は思わず身構えた。 次の人格がどんな人格か分からない。 警戒しながらベッドに近づくと、目を開けた彼女は言葉もなく辺りを見回した。 真壁の顔を見て目を大きくし、布団を顔の前に引っ張り上げると勢いよく壁際に寄った。 壁に背中をぶつけ、ドンと音がする。 夜斗が驚いて部屋に入ってきた。 「どうした?」 そこで見たのは怯えた表情をして壁際で震える深雪の姿をした『誰か』だった。 「キミは…誰だい?」 真壁がゆっくりと声を掛ける。 彼女は小さく横に首を振りながら、布団で顔を隠した。 夜斗もベッドに近づいてきた。 「僕は真壁っていうんだ。で、こっちは大江夜斗。さあ、君の名前は?」 真壁がゆっくり手を差し出すけれど、彼女は頭を横に振ったまま何も言わない。 「まさか……」 真壁がうなだれて頭を下げた。 「なんだよ」 夜斗が真壁の腕を肘で突いた。 大きなため息が部屋の中に響いた。 デジャヴというのはこの事だろうか。 真壁の記憶は過去へと飛んでいく。 深雪が初めて真壁の事を「真壁先生」と呼ぶ前の記憶……。 「失声症か……」 頭を抱えた真壁がつぶやいた。 夜斗にも聞き覚えがある。 夜斗もまた同じように記憶をさかのぼり、頭を抱えてうなだれた。
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!