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それから、彼女は雅希との馴れ初め話やら、自分に歌の世界を教えてくれたのは、彼だとか、自分と雅希の色んな話を、初対面の俺に、語り始めた。
俺は、そんな彼女の話をただ黙って聞いていた。
というか、何を返せばいいのか分からなかったし。
初対面の相手に、よくそこまで話せるよなぁなんて、半ば感心したりしていた。
どれくらい時間が経ったのか、分からなかったけど、いつの間にか日は落ちて、月明かりが、俺達を照らしていて…。
そろそろ、帰らなきゃ、マズイんじゃないかなぁなんて、思っていると、突拍子もなく、彼女が言う。
「ねぇ、雅希は、本当に退院できるの?」
「何ですか?いきなり。」
「だって、君、院長の息子でしょ?」
「…確かに、そうですけど…って、何で知ってんですか?」
「院長が、『うちの息子は勉強もしないで、屋上で空ばっかり見てる』って言ってた。試しに来てみたら、君しか居なかったからすぐ分かったよ。」
…親父、頼むから、他人にそんな話するなよ…。
「残念だけど、俺は何も知りません。まぁ、例え知ってても俺の口から言うことは出来ません。」
「…そうだよね…。」
少し彼女の顔が曇ったのが、暗がりの中でも感じ取れた。
だけど、他人の俺が、患者の生死に関わる事を、無責任に話す訳にはいかないだろ。
「白血病は、今は不治の病じゃないんでしょ?」
「そうですね。」
「雅希が無菌室から出れたのは、良くなってきたからなんだよね?」
「それは…。」
雅希さんの個室は、他の部屋から隔離されたみたいに、一つだけ、ポツンとあって、そこは、「死が近い」人の為の病室だって、病院内では、暗黙の了解になっている。もちろん、患者さんはそんな事知らないけど。
そこに彼が居るという事はつまり、彼はもう長くはないって事で…。
「雅希、最近、変なの。口ではもうすぐ、退院出来るって言うのに、無菌室を出てから、片時もギターを離さないし…。病院なのに、弾いていいって許可が降りてるなんて、まるで、もうすぐ死ぬから、好きな事していぃよって言ってるみたいじゃない。……あたし、雅希が居なくなったら、生きていけない。」
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