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「雅希~、調子どう?」
「今日はいくらかマシかな。」
病室のドアを開ける、恋人の姿に、
いつもより、少し早いな。
そんな事を思いながら、今まで走り書きしていたノートを閉じて、背中の枕の後ろに隠す。
「あ、今、何か隠した~。」
「新しい歌詞だよ。まだ未夢には見せられないな。」
「ふ~ん。じゃあ楽しみにしてるね。」
何だか一瞬、顔が曇ったような気がしたが、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「早く退院できるといいね。」
「もうすぐ、できるよ。最近、体調もだいぶ良くなってきてるし。すぐ仕事に復帰できるように、ギターも弾いておかないとね。」
僕は、出来るだけ穏やかに笑った。
「今日は仕事はないの?」
「この後、ラジオ録りがあるけど、少し時間あるから、雅希の顔見て行こうと思って、マネに寄ってもらったの。」
「ラジオか。未夢も中々やるようになったなぁ。僕より人気あるんじゃない?」
「そんな事ないよ~。」
僕が「そうかな?」と意地悪く笑うと、真剣な顔で未夢が続ける。
「雅希が、居なかったら、あたしはこの世界を知らなかった。雅希が、唄を教えてくれたから、今のあたしがあるんだよ。本当に感謝してる。あたしにとって、雅希は憧れのシンガーなんだからね。だから、早く元気になって、大好きな唄を聴かせて欲しい。」
いつの間にか、その瞳には涙が溜まっていた。
「どうした?感極まっちゃた?ホントに涙脆いな、未夢は。」
優しく頭を撫でてやると、少し恥ずかしそうに微笑んだ。
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