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そう言えば。
「どうして前もって白川さんが来るってわかってるんだ?」
普通、バーに来るのに予告なんてしない。それなのに、白川さん目当ての男たちがこれだけ集まっているということは、数日前から来ることがわかっていたのだろう。
「友達のバースデーケーキを用意してくれって電話があったんだよ。で、あの席も予約した。その時のやり取りを聞いてたお客さんがSNSで呟いてくれたおかげで大盛況さ」
志木が指差す方を見ると、店の奥の2人掛けのテーブル席が空いていて、『reserved』のプレートが置かれている。
【友達】【バースデー】【2人掛けの席】。
3つのキーワードが俺の頭の中で一つの推論を導き出す。
白川美月が2人だけで誕生日を祝う友達。と来たら、親友の大沢優奈しかいないじゃないか!
ガタンと立ち上がった俺を志木がビックリした顔で見た。
「悪い。ちょっと忘れ物。すぐ戻る」
そうだ。誕生日ならプレゼントを買いに行かなくては!
彼女にプレゼントを渡せるチャンスなんて、もうないかもしれない。
店から出ようとドアを開けた俺の胸に、ドスンと女性がぶつかってきた。
「すびばせん!」
「ちょっと、美月! 大丈夫?」
胸の中の女性の声とその後ろから入ってきた女性の声がほぼ同時に聞こえた。
「あっ……」
情けないことに俺の口を出たのは、その1文字だけ。
「え⁉ 副社長?」
白川美月と大沢優奈が俺の顔を見て、驚きの声を上げた。
「お疲れ様です」
白川さんがすぐに俺から離れたのは、たぶん束縛系の彼氏に怒られるからだろう。
俺に体当たりしたせいで鼻の先が少し赤くなっている。それでも彼女の美貌はまったく損なわれることはなかった。
「お疲れ様です。副社長、ラッキーでしたね。美月を抱きしめられて」
にこやかに会釈した白川さんとは対照的に、大沢さんはニコリともしないで俺を見上げた。
抱きしめてなんかいない。ただぶつかっただけだ。
白川さんは顔面から体当たりしてきたから、身体が触れ合ったのなんて、ほんの一瞬だ。
ラッキーだなんて思うわけがない。
俺の胸に飛び込んできたのが大沢さんの方だったら良かったのに。
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