見ないフリ

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見ないフリ

 今日は部活の片づけ当番で、片づけを終えて部室に戻ったら、案の定もう誰もいなかった。  当番の日は一人だけ遅くなる。これはいつものことだしみんなも条件は同じだから、特に不満はなく、慌てて帰り支度をした。  着替えをすませ、もう帰るだけだけれど、一応鏡で髪の乱れを確認する。  そんな私の姿の背後に、ちらと人影が映り込んだ。  …背後どころか周囲のどこにも人の気配はない。そもそも、鏡に映っているような髪の長い子は部内にいない。だから一目見ただけで、それが『見えてはいけないモノ』だと判った。  何も見なかった。そんな態度で鏡をしまい、背後を気にするふうもなく出入り口に向かう。  慌てないよう外へ出て、いつも通りの態度で施錠をし、鍵を職員室に返して帰宅した。その間中心臓はドキドキしていたし、家でもビクビクしながら過ごしたけれど、特に何もなかったので、翌朝には、昨日のことは半ば以上夢の体験のようなものになっていた。  でもそれから数日後、部内で騒ぎが起きた。  片づけ当番で居残った子が、部室で幽霊を見たと言い出したのだ。  信じる子も信じない子もいたけれど、その子は絶対幽霊を見たと言い張り、自宅でまで同じ幽霊を見たと騒ぎだして、今は学校を休んでいる。  私は自分の体験上、彼女の話は真実だと思っている。でも幽霊の存在の真偽については曖昧な意見しか口にしてはいない。  あくまでこれは自分の考えだけれど、騒いだことで、彼女は幽霊側に認識され、憑りつかれてしまったのではないだろうか。  もしこの考えが当たっていたら、あの時幽霊をいないものとして扱った自分はねとても的確な判断と対応をしたと思う。  昔から、触らぬ神に祟りなしって言うしね。  見える筈のないモノを見たら騒ぎたくなるのは仕方ないけど、時には見ないフリも大切。  彼女には悪いけれど、今回の件で心底そう思ったな。 見ないフリ…完
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