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そのものを手に入れることができているかどうかの確認材料が「温もり」であり、「いっしょに過ごす時間」であり、「妻や恋人という称号」だったのだと思う。今考えてみれば、私はそのどれをも掴めてはいなかった。触れ合えば触れ合うほど冷たかったし、どんなに長い時間を共にしていても心は離れていた。ましてや「称号」など口にすることもできない雰囲気だった。
何が足りなかったのだろう…。
出逢う順番だったのだろうか。
でも、私が彼女より早く出逢っていたら、それは特別な関係に発展したのだろうか。
彼女のような姿形ではないからだろうか…。
彼女のような性格ではないからだろうか…。
それならば、私はほんの少しの期待も抱かなかったであろうから、そういうことではなかったと思いたい。
ふと、疑問に思うことがある。
彼女は『私』の存在を知っていたのだろうか。彼の全ての時間を把握できていなかったことを不安に思うことはなかったのだろうか。
私は、今、その「彼女」の立場にありながら、様々な不安と向き合わなければならないことを知っている。それは完全に解決できることではなく、ある程度の妥協と我慢が必要だということも知っている。
それでも欲しかった「称号」は手に入れた。
そして、現在(いま)、私は彼と彼の「愛する人」の街を訪れている。
歴然とした差、はっきりとした敗北感を味わいながらも、私は行動に移さずにはいられなかった。
「お久しぶりです」
彼と彼女に声をかける。
ほんの一瞬眉間に皺を寄せてみせたが、比較的すぐに彼が答えた。
「ああ、本当に久しぶり」
隣の彼女は微笑んでいる。
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