1 あなたの友達売ります

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 田舎町にある唯一の駅は山の上にある。その駅の裏手には急坂の道がある。最短距離でたどり着けるものの傾斜がきつく距離も長いため使用する生徒はほとんどいない。地元住民や生徒達には「二十人殺しの地獄坂」と呼ばれている。この坂道の傾斜の辛さから坂道の途中で倒れた人間は二十人を超えるという噂からついたものらしいが、正直恥ずかしい名前だと私は思う。    この地獄坂の中腹に実はひっそりと脇道が伸びている。その道を行った先にひっそりと建っている西洋風の建物。ほどんど誰も立ち寄らないような場所。そんな一軒家に小さな看板が立っている。 『友達屋 あなたの友達売ります』  黒板にチョークで殴り書きしたような看板がひっそりとある、その店は知る人だけが知っている隠れ家的な店だ。私がここにたどり着いたのは本当にただの偶然だった。地獄坂を登ってみようと思ったのも偶然だし、脇道を見つけたのもただの偶然だった。  だから、私がこの店に足を踏み入れてスミちゃんと出会ったのもきっと偶然だったのだろう。  扉をあけるとカランと鈴の音が響く。窓際の席に座っていたショートカットの女の子が私に気が付いて手を振ってくる。 「菜緒ちゃん! こっちこっち」  私はスミちゃんの座っている席に向かって座る。 「ごめん。待ったかしら」 「ううん。今来たばっかりだよ」  にこやかに笑う彼女の笑顔を見て少し胸をなでおろす。 「あー。お前らまた来たのかよ」  私が席に着くと妙に背の高い女の人が黒いエプロンをかけてメニューを持ってくる。 「斉川さん」 「お前ら暇なのな」 「店員が客が来るのを面倒くさがらないでくださいよ」  斉川さんはこの店の唯一の店員で店長だ。背が高くスタイルもよく顔も整っているが性格に難ありだ。 「俺の店にくる客なんて大抵が碌な奴じゃないからな」  肩を竦めて皮肉気に笑いながら斉川さんが言う。 「私はこの店の珈琲好きですよ!」  手を垂直に上げながらスミちゃんが言う。 「そうか。そうか。それは良かった。ちなみに坂の下の業務用スーパーに袋で売ってるから買って帰るといいぞ」 「……インスタントなんですか……美味しいからいいですけど」
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