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4 友達
「私と菜緒ちゃんって友達だよね」
「友達の定義によるわね」
「ひねくれすぎでしょ」
「じゃあ、スミちゃんにとって友達って言うのはどんな人なのかしら。ちなみに私はスミちゃんの事を友達だと思っているわ」
「え? あ? うん。ありがとう。菜緒ちゃんは急に恥ずかしいこと言うから驚くよ」
「事実よ」
「私の思う友達かぁ。何でも話してくれて相談に乗ってくれてくだらない事で笑いあえるような関係が理想だと思うなぁ。……だから、大人になると友達って作れなくなっちゃうんだけど」
スミちゃんか空になった珈琲カップを眺めながら寂しそうに言う。
大人になると学生の時とは違い、明確に人間関係に枠ができる歴然とした差が生まれる。その事実に目をつぶって何もかもを話せるような関係になれるような人間はいない。
「私は友達だから何もかも知っている必要はないと思うわ。友達に秘密や悩みを話す必要もないと思うし、友達の秘密や悩みを話してほしいとは願わない。それは話したくなった時に話してくれれば良いと思うわ」
「それはそれで寂しいよ」
私も空になったカップを眺めながら考える。
自覚はしている。私の考えでは深い関係になることは、親友と呼べる関係をつくることは難しいだろう。
「だから……ううん。何でもない」
スミちゃんが何かを言おうとして言葉を飲み込んだ。
「それでも私たちは友達でしょう」
「うん。そうだね。友達だね」
ビジネスライクな友達。それが私とスミちゃんの関係だ。
「お。飲み切ったな。追加注文するか?」
食器を片付けに来たらしい斉川さんがあくびをしながら注文を聞いてくる。
「斉川さんは友達って言うのはどういう関係だと思いますか?」
私は斉川さんに質問を投げかける。友達を売るなんていう商売をしている斉川さんなら答えを知っているかもしれないと思ったからだ。
斉川さんは私の質問に心底嫌そうな顔をする。
「はぁー? お前何言ってるんだ? 友達なんてお前が友達だと思ったら友達だろ」
くだらない質問してるんじゃねぇよ。と吐き捨てるように言って斉川さんはカウンターへ戻っていった。
「私も大概だけど、あの人ほど身も蓋もないなくないわ」
「それは同感だね。でも、私は斉川さん好きだよ」
「そうね」
スミちゃんと二人で顔を見合わせてクスクスと笑った。
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