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「恭子さま、今度、漫画のご本を買ってきましょうか?」
静子さんは気をきかせたつもりで訊いてきた。
「でも、私、どの漫画が面白いか、わからないの」
「私、調べます!」
静子さんの勢いに気後れしていると、テーブルの上に戻されたティーカップの音がカチャッとした。
カップから目の前の静子さんの方に目を戻すとその目は透き通るように見えた。
「恭子さま、本当は漫画なんてご興味はないのではありませんか?」
静子さんの綺麗な瞳は私の視線を捕らえたまま逃さない。
静子さんの言うことは当たっている。
静子さんは慌てんぼさんだけど、こういうこと・・つまり、私のことはよくわかる。
私は漫画には興味はない。
それを話題にしているクラスの子たちに興味がある。
漫画の話で楽しそうにしてる子たちのことを知りたい。
どうすれば知ることができるのか?
どうして知りたいと思うのか、わからない。
みんなが話しているのを見ているとなぜか胸の中にぽっかりと穴が開いていて、そこがギュッと締めつけられるような感じがする。
同時に目の奥が少し熱くなる。
私にはその感情がよくわからない。
こんなことで泣くとは思わないけれど、これは「泣く」という感情に近いのだろうか?
けれど私は決して泣くことはない。特に人前では絶対に泣かない。
母と離れることになった時も私は人前では泣かなかった。
母がこの家を去ったのは私がまだ小学校に通いだす前のことだ。私にはその理由が分からなかった。父にも叔父にも仕方のないことだと言われた。
私は寂しくてどうにかなりそうだった。
私は家の中を走り回って部屋のドアを一つ一つ開けて母を探した。
母がいる頃からそうして母を捜す習慣があったので疲れきるまで毎日屋敷中を走り続けた。
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