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だが結局、母を見つけられず最後に開けた自分の部屋で泣いた・・泣き続けた。
以前は探し回ると、どこかの部屋には必ず母がいたのに、どこにも見つけられなかった。見つけられないのは自分の努力が足らないせいなのだと、自分を責めた。
まだ「離婚」ということが理解できなかったので子供がある程度の年齢になったら、母親という存在は子供の前からいなくなるのだと思った。
これからはどの部屋のドアを開けても母はいない・・そう思うことにした。
母がいた部屋が一つ、この家から消えただけだ。そう自分に言い聞かせた。
しかしそれは違うことがすぐにわかった。父がすぐに再婚したからだ。
その人の顔は私の前から消えた母の顔とは全然違っていた。
少しぼんやりしたところのあった母とは違って再婚した相手の人ははっきり物を言うし、動作もてきぱきとしていた。
私は思った・・この人は母親ではない、と。
私がそう思っていることがどうでもいいことのようにこの人はこの家にほとんど顔を出さない。情が移るどころか顔も時々忘れるほどだ。
あの人は東京にいた頃の小学校の入学式には姿を現し、一度だけ授業参観の時に教室に入ってきて他の母親と並んで、いかにも「あの子の母親です」というような顔をして立っていた。
家にいる時は父と仕事の話を夜遅くまで話していることがあった。
その中には私はいない。
私はあの人の作ったものを食べたことは一度もない。家の食事はその頃にいたお手伝いさんの島本さんが作ってくれていた。島本さんが私の母の代わりみたいなものだった。
そしてその島本さんも辞めることになってその代わりに静子さんが来た。
静子さんは料理や家事は島本さんより優れているとはお世辞にも言えなかったけれど、 島本さんよりずっと若く勉強やスポーツはよく出来た。私にとって静子さんはいい教師だ。
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