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そして、母がいなくなり、父が亡くなった時も私は人前で泣かなかった。
父にずっと言われていたからだ。私は父の言いつけをきちんと守った。
後で父の言うことがわかった。人前で泣くと相手に弱みを見せることになるからだ。
父が言うのには私はいずれ父の事業を継がなければいけないそうだ。
まだ事業のこととかはよくわからなかったけれど私は人前で絶対に泣かなかった。
あの人・・形だけの母親がいたせいもあって、この人のいる所では絶対に泣かないでおこうと自分を勇気づけた。
どうしても泣きそうになった時には自分の部屋に入って思いっきり泣いた。
父が亡くなった時でさえ私は人前で泣かなかったのだから、もうこの先、一生、私は人前で泣くことはないと思う。
そう、静子さんは「慌てんぼさん」だけど、私の方は「強がりな女の子」だ。
「静子さん、そんなことはないわ」私は静子さんの言ったことを否定して「みんなの話してる漫画の世界の話には興味があるわ」と言った。
「そ、そうですか・・」
静子さんは自分の言ったことを否定され少し自信をなくしたように見える。
「たぶん、漫画の中の話だけど、魔法の・・」
「魔法?」
「ええ、魔法・・よ」
「それは魔法が使える女の子の話でしょう?あくまでも空想の絵空事です」
「みんなが言っているのはそれのことかしら?」
教室の中で聞こえてくるみんなの声はどれも断片的なことなのでよく理解できない。
やはり静子さんに漫画の本を買ってきてもらった方がいいのかしら?
「それと結婚・・の話とか・・」
「魔法」という単語の他にも「結婚」とかの言葉もよく出ていた。
少女漫画なのにどうして結婚の話が出るのかわからない。
「結婚?」
静子さんは口元に持っていっていたカップをお皿の上に戻した。
「そういえば静子さんは結婚はしないの?」
ついでに私は前から気になっていたことを訊ねてみた。
静子さんは結婚すれば今の仕事はどうするのかしら?
この家を出るのだろうか?それとも仕事を続けてくれるのかしら?
そのことを考えると少し不安になる。
「結婚ですか・・」
突然の問いかけに静子さんは戸惑っているように見えた。
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