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◇
恭子さまはテラスの丸テーブルの向かいに両脚をきちんと揃えられてティーカップを手にしている。ティーワゴンには恭子さまがいつでも紅茶のお替りができるように準備してある。
これは私の好きな時間。とても大切な時間。
明日、駅前の本屋さんに行って漫画の本を探そうと思っている。
東京と違ってこちらの品揃えはどうなのだろう? 単行本よりまずは雑誌から読み始めるのがいいのかしら?店員さんにお勧めを訊いてみよう。
そうそう、明日は恭子さまの冬用のお洋服を揃えるのに仕立て屋が来る予定だったわ。
それでは本屋に行くのは明後日ね。
えっ?明後日も何か予定があったはず、後で手帳を見ておくことにしよう。
どんなお洋服が恭子さまに似合うのだろう。
想像の中で目の前の恭子さまのお姿に色んな服を着せてみた。
あれも可愛い、この服も可愛い、と恭子さまには断りもせず勝手に想像を巡らせる。
これなんかどうだろう?少し派手かしら?
あまり派手だと学校で浮いてしまうかもしれないのでこれはやめておこう。
日本人と違って何でも似合いそうだから少し羨ましい。
そう思考を巡らせながら恭子さまとおしゃべりの時間を楽しんでいる時に突然問いかけられた。
「静子さんは結婚はしないの?」
恭子さまは紅茶を飲みながら無邪気な顔で訊ねた。
「前から静子さんに訊こうと思っていたの」
あまりにも突然だったので飲みかけの紅茶をぷっと吹き出しそうになる。
「私は・・」私は少し口ごもらせ「私には、そんな相手、いませんから・・」と答えた。
私は紅茶カップを手にしながら、昔、コーヒーをよく飲んでいた日々のことを思い出していた。
私にもそんな相手らしき人が前にいることはいた。
それは恭子さまに初めてお会いした日のこと・・
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