試練

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少しの間 ただ静かに私を 見つめていた瞳が ふと緩み、私の心を 優しく包み込むように微笑んだ。 「……そうか」 温人さんの右手が 私の左手をとる。 彼の親指が 私の薬指にそっとおさまる シンプルなリングを くすぐるように撫でた。 「温人さん……?」 温人さんの考えていることが 私には読めない。 私への愛情は 過剰なくらい表現するけれど それ以外のことはあまり 表に出さない人なのだ。 こうして思いを通わせる前は 何を考えているのか よくわからない人だと思っていた。 「行こうか」 「え……どこに?」 「それはもちろん ご挨拶に、だよ」 そう言って笑ったのは ゼネラルマネージャーじゃく 私の夫である ただの上遠野温人の顔だった。
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